三杯のすむ長い間、何ひと言和尚様は語りだされるでもなかった。すべてはただ黙々とした中に終始された。ほろ酔で阿父さんが木やりくずしか何か歌いだす我家の食膳が、そこに満ち漲る愉しい温い雰囲気がつくづくと次郎吉は恋しかった。しらぬ他国にいる寂しさにしんしんと身内の冷え返ることを感じた。
やっとお食事がおわると、
(もう片づけて)
という風に目で前のお膳を指された。
待っていましたとばかり、ピョコッとまたお辞儀をして立ち上がると、次郎吉は立ちのまま両手でお膳を持ってさっさと引き下がってきてしまった。
それからやっと自分たちの食事になった。
こちらは濛々と大きなお鍋から湯気が立って、傍目《はため》にはひどく美味しそうだったが、取柄といえば温いばかり。今夜も下らなく仇辛いお雑炊だった。
お菜はひね[#「ひね」に傍点]沢庵が三切れずつ。
でも次郎吉を除く皆はフーフー吹きながら、幾杯もお代りをしては啜り込んでいた。幾度かジロリジロリこちらを睨むようにしている義兄の目を感じながらも次郎吉は、どうしてもたべることができなかった。
二杯――やっとの思いで二杯だけたべた。
それから火の気のな
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