る尖った義兄の顔は、自分たちとは全く世界を異にしている人々だけの持つ厳しさだった。毎度々々のことながら取っ付けないものをそこに感じた。
「和尚様御食事じゃ。サ、早う給仕」
 そう冷淡に(と次郎吉にはおもわれた)いい捨てて踵を返すと、侘びしい灯の流れているほうへ、真黒い衣を鋭くひるがえしながらとつかは[#「とつかは」に傍点]と消えていってしまった。
 時分時だというけれど、自分たちの住んでいた町家《まちや》のようにお汁《つゆ》の匂いひとつただよってくるでもない。それも次郎吉には侘びしかった。
 急いで和尚様のお居間へ入っていくと、もう誰かが運んできたのだろう、つつましくふた品ほどのお菜《かず》をのせた渋いろの塗膳を前に、角張った顔を貧血させて和尚様は、キチンと手を膝の上に、控えておられた。
「あいすみませんおそくなりまして……」
 ちっとも小坊主らしくない軽いちょく[#「ちょく」に傍点]な調子でいいながら、ピョコッと次郎吉はお辞儀した。
「……」
 黙って和尚様はところどころヒビの入っている大きなお茶碗をヌイと差し出された。
 ……少しずつよそってそれを長い長いことかかって三杯。でもその
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