声もオロオロおすみはいった。顔中がしとど涙で濡れていた。その後で父圓太郎は、ただもういたずらにパクパク口だけ動かしてポカンとしていた。
「だがしかし」
 ギロリと若者のように目を光らせて先生は、
「このままではいかん、このままこの者にこうしたコツコツと身体を動かさずやる仕事をさせておいたなら間違いなく労咳《ろうがい》になる。そうして死ぬ、現にこれこの通り労咳のトバ口、血を吐いていおる」
「……」
 黙って玄正は目を伏せた。おすみの唇が烈しくワナワナ慄えていた、父親といっしょに。
「さりとて力業は尚いかん。いや、むずかしいのじゃ一番こういう質《たち》の子が」
 しみじみと嘆息するように、
「早い話が己の身に付いた道を走らせてやれば仲々に長生きもするだろうが、そうでないところを歩かせたりすると気鬱からすぐ労咳になる。労症労咳、繰り返していうようじゃが、命取りじゃ。これは知っていなさるなよく」
 またギロリと一同を睨み廻した。恐れ入ったように玄正が頭を下げた。いっしょにおすみ、圓太郎もお辞儀をした。
「と、いたしますとあの先生、この子、一体あのどういう道に進ませましたなら……」
 ややあ
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