突ッぱねるようにいった。
「しかし……しかしお前何か……」
「ありません」
「あるだろうしかし」
「……いいえ。ありません……」
「しかしほんとにお前……」
「ないったらないんです」
問答無益という風に目を閉じてしまったが、やがて目を閉じたままで、
「ヘッ、俺、ほんとに芸のほかにやりたいものがこの世の中にあったりしておたまりこぶし[#「おたまりこぶし」に傍点]が……」
そのまんまゴロリと寝返り打つと、反対のほうを向いてしまった。いい知れぬ怨めしさに、危うく涙がこぼれようとしてきた。
「……フーム……」
ますますほんとうの突き詰めた心のほどを見せられてしまって玄正は、ますます当惑してしまった。
今までこんなにも自分は、この腹違いの弟がひとすじの強い強い心を内に持っていようとはつゆ[#「つゆ」に傍点]しらなかった。たかが親父の血を受けたぐうたらべ[#「ぐうたらべ」に傍点]くらいにおもっていた。なればこそ何とかまっとう[#「まっとう」に傍点]の道へ引き戻して一人前の人間にしてやろうといろいろ心を砕いていたのだった。
それが――それが……。
怠け者でも、半人足でも、片輪でもまた悪人
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