なくてつまらなくて仕方がないんでさ。だからこんな病気になんかなっちまうんでさあ」
 悲しく不貞腐れてといおうにはあまりにもキッパリと、
「エエいまだから皆正直にいっちまいますよ、ねえ兄《あに》さん。ほんとにこればかりはいくら兄さんになぐられても叩かれてもどうにもならないことなんだけれど、この私という人間は好きなことのほか一切何もかもしたくないんでさ。またいくらやったって無駄だとおもうんだ。ねえ、ねえ、あなたもそうおもいませんかね、ほんとに」
 いいながらもさらにまた一段とその決意を深めていくような様子だった。
「……ウーム……」
 あまりにもほんとうの心の底を隠すところなく告げられて、さすがに玄正は一瞬、言句に詰まってしまった。
「……ウーム……」
 もういっぺんまた唸って、
「ではお前……」
 いつになくナンドリと相談するように、
「何になら、なってみたいのだ」
 玄正は訊ねた。
「芸人でさあ、だから」
 待ち兼ねたように次郎吉はいった、何を分り切ったことをといわないばかりに。
「そ、それはいかん」
 あわてて玄正、
「そ、そのほかで……そのほかで何か」
「……ありませんよ」
 低く
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