」に傍点]にもせよ俺の分と手前の分だけ他の人よりいい給金《わり》をこしらえやがるなんて、ああ人間はこういきてえ。偉え、次郎公偉え偉え、たしかに偉えぞ、オーイ番頭《ばんつ》さん」
 しゃくるようにすぐ目の前の黒い長い顔を見上げて、
「ねえ、もし、うちの次郎公は不都合どころか、日本一の親孝行者ですぜ」
 ……そうもの[#「もの」に傍点]が分らなくなっちゃ始末がわるい。とうとう今度は番頭がキュッと両手でお腹をかかえて、転げるようにいつ迄もいつ迄も笑いだした。同時に最前から我慢していた中番頭も手代も小僧たちも、果ては次郎吉までがいっしょになってゲラゲラゲラゲラ笑いだした。
 早いお花見の目鬘《めかずら》を売る爺さんが一人、不思議そうに店の中を覗き込みながら通り過ぎていった。

 今度こそ圓太郎は次郎吉を元の小圓太にさせてやりたくてならなかったが、やっぱり手厳しく女房に反対された。玄正の反対もまた絶対だった。
 拠所《よんどころ》なく西黒門町の青物屋八百春へ奉公にだしてやった。
 二日……三日……四日。
 何事もなかった。
 五日目の夕方になると、だしぬけに寝た間も忘れない寄席の一番太鼓がドロド
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