うにして、
「フッハッハッハ、こいつァいいや」
「いやだな。この人は。お前さんがそうそこで喜んでしまっちゃ」
 困ったように番頭はいったが、
「だって……だって、いい話ですよこいつァ、番頭さん。さすがに……さすがに次郎公はあっしの忰だ。ウム、いい、じつにいい話だ」
「ちっともいい話じゃありゃしない」
 いよいよ番頭困ってしまって、
「見ておくんなさい、何しろその悪戯《いたずら》を」
 再び金箱を傾けるようにして突き付けると、未だ満面に笑《えみ》をたたえながら圓太郎、器用にこしらえられている給金《わり》の包みを手に取って、ひとつひとつ感心したように眺めていたが、やがてズーッと自分の前の畳の上へ並べてみて尚もしきりに眺め廻しているうち、にわかに何か不審でならないもののようにキョトンとした目をパチパチしだした、とおもううち大発見でもしたかのようにやがてその目はサッと喜びにかがやきだした、ばかりかしばらく大きな掌の上へのせて重みを計っていた「圓太郎御師様」と書いた分と「小圓太様」と書いた分とを世にも恭しく押し頂いて、
「偉い!」
 吃驚するような大きな声でこういうと、
「ウーム、うそ[#「うそ
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