いの汗をしきりにこぼれ松葉の手拭で拭きながら、薄暗い山城屋の店先へ腰を下ろした、心の中ではヤレヤレ野郎また何か仕出かしやがったなと店先にちょこなん[#「ちょこなん」に傍点]とかしこまっている次郎吉のほうをチラチラ情なく見やりながら。
「見ておくれ、これ」
苦り切って糸瓜《へちま》ほど長い黒い顔をした大番頭さんが、金箱のへり[#「へり」に傍点]へ手を掛け少し傾けるようにして中を見せた。
表の反射で薄明るい金箱の中にはいくつもいくつも何か字の書いてある黒く汚れた紙包みが押し合い、へし合っていた。
「な、何でござんしょう、それ」
解《げ》せないもののように圓太郎は丸々とした頸を傾《かし》げた。
「お前さん方《がた》のほうのお給金、ワリ[#「ワリ」に傍点]とか何とかいうんだそうだね、その給金《わり》なのだこれ[#「これ」に傍点]、この人がこしらえた……」
「ゲッ」
急にサーッと圓太郎顔いろを変えたかとおもうと、
「ト、とんでもねえ。……じゃじゃ番頭《ばんつ》さん、コ、この餓鬼ァお店のお宝を給金にして、ダ、誰かあっしどもの仲間にでも運んでやってたんで」
いいながらツツーと猿臂《えんぴ》
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