》へ寄った。少し乗りだすようにして両国橋のほうを見るとポツリポツリ、早くも親指の尖のほど渦巻がいくつもいくつも川面へ描かれてはまた消えている。
 でも、どうしてだろう、いつももう浮いたようないろの灯点して囃し立てている広小路の盛り場が、ヒッソリ今夜は薄闇の中に静まり返っていた。
「出してくれ着物」
 すぐ高座着をださせ、合羽をださせ、かっこうよくひとつひとつそれを身に着けて、
「じゃ、おい」
 いってくるよといっしょに階下《した》へ下りようとしたのと、バタバタ真っ青な顔して女中の駈け上がってきたのとがいっしょだった。
「あの……おいでになれませんよお師匠《しょ》さん寄席へは」
 息はずませて女中はいった。
「どうして」
 圓朝は訊ねた。
「開かないんです木戸が」
 また女中はいった、やっぱり息はずませながら。
「な、何ですかいま……大へんな戦《いくさ》が始まったんですって」


     六

 すぐに圓朝は、小糸を自分の家へ――。
 母を見舞わせ、弟子たちの様子を聞かせ、同時に戦の様子も詳しく聞いてこさせることにした。自分は女中を手伝って二階を片づけ、すぐまた下りてきてどんどんそこら
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