もののような感じのおんなだったが、人一倍苦労の味を噛みしめてきているだけに弟子たちの面倒もじつによく見た。
「あの姐さんならうちの師匠と似合いの夫婦だ」
 口々に弟子たちがこういった。
 圓朝自身もまた、そのつもりだった。なればこそ半分、自分の家のようにしてそこの二階から寄席や座敷へとかよっていたのだった。
 ただその小糸にして只ひとつ、いつもしみじみと弟子たちにいうことがあった。
「うちのお師匠さん、平常《ふだん》はほんとうに申し分ないお人だけれど、私困ってしまうことがひとつだけあるの。噺をおこしらえなさる前の二、三日……そりゃほんとに妙に機嫌が悪くなっておしまいなすって、急にひとり言をおいいだしなすったり、部屋ン中をぐるぐるあちこち[#「あちこち」に傍点]お歩きンなったり、お顔といったらそりゃもうほんとに恐しくなって。御自分は女がお産をする迄の苦しみと同じなんだよっておっしゃるけれど私、あんな私、困ることッたらないわ」
 言いおえるときいつも伏せられた寂しい黒い目は、シットリ途方に暮れたよう露帯びていた。
 つまりそれほど圓朝の噺へ打ち込む魂は真剣だったのだった、いずこいかなるとこ
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