、が、そうした事情をこれまた知る由もない船頭衆は押し合いへし合う背後の船を避けようため、かえって圓朝の屋根船を、問題の船のすぐ前方へと、グイとひと梶すすめてしまった。
「ねえ師匠。どっかのお天気野郎が御大層な首抜きの縮緬浴衣を見せびらかしにきていやすぜ」
聞こえよがしのお追従を、一番弟子の柳條がいった。
「……」
突嗟に圓朝はムカッとしたが、強いて聞こえないような振りをしていると、
「へっ、一帳羅の縮緬浴衣を着ちらして、水でもはねたらどうする気でしょう。縮緬という奴は水にあてて縮んだら、明日の晩から高座へ着て出るわけにはいきやせんからなあ」
今度はもうひとりの柳橘がいうなり、カッと舟べりへ、さも汚いものでも見たあとのように唾を吐いた。
ベッ、ベッ。何べんも何べんも吐きちらした。
そうして、いつ迄も止めなかった。
たちまち圓朝はカーッとなった。グ、グ、グ、グと身体中の血汐が煮えくり返るような気がしてきて、
「コ、こんな浴衣は二十が三十でも俺ンところにはお仕着同様転がってらあ、なあ、なあ、お糸」
いつになくこんな鉄火にいい放ったかとおもうとにわかに立ち上がって舟べりへ片足かけ
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