と楽屋入りした。少し風邪気味のときなどは黄昏、芝居の頼兼公のような濃紫の鉢巻をして駕籠に揺られ、楽屋口ちかく下り立つと、つき添いの萬朝の背に片手かけて、しずかにしずうかに楽屋に入った。いかさまこれでは往来群衆の目に留まらないわけがない、圓朝が行く圓朝がとえらい評判になってしまった、そうしてまたその晩の客が増えた。
「な、何だいあの姿は」
「とんだ茶番の助六だね」
 さすがにここまでくると、仲間の誰彼がハッキリ後ろ指を指しはじめた。
「いえもうここ[#「ここ」に傍点]へきてるんですよ皆さん」
 中でも自分の脳天へ指をやって師匠圓生は、ここぞとばかり圓朝狂えりといい触らした。
「圓朝さん、お前生涯にいっぺんだけそういう装《な》りがしてみたかったんだろう、生れてから今日日《きょうび》までお前の身の周りは何もかもズーッと真っ黒ずくめだったんだものなあ」
 ある日、しみじみと文楽師匠だけはこういってくれた。
 その通り、まさにその通りだった。何ももう改めていうがことはない。隈《くま》なく心の中を天眼鏡で見透されたような気がした。何てよく分ってくれる人なんだろう、私の心の中のことが。
「分るよく分
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