気だえ」
心配そうに阿母が入ってきて、
「近江屋さんへいってこの事情をいってちょいと一時高座着をだして頂こうか……」
「いらない、いや、いりませんよ阿母《おっか》さん」
首を振って圓朝、
「だって芸人がそんな、あた[#「あた」に傍点]みっともないそんなことは、……」
「だってみすみすお前なかったことには」
また心配そうに圓朝の顔を見た。
「いや、けれども」
もいっぺん首を振って、
「何とか、何とかなります」
「なりますたってお前」
「なりますったらなりますよ。大丈夫。阿母さんはそんな心配しないでも。ア、そうだ、それよかお使い立てしてすまないけれど表の小間物屋の娘さんの羽子板をひとつちょいと借りてきておくんなさいな」
呆気にとられてそのまま阿母は表へでていったが、やがて仇っぽい粂三郎のお嬢《じょう》吉三《きちざ》の小さな羽子板かかえてかえってきた。
「ハイすみません。サ、あと[#「あと」に傍点]は台所へいってと、そう、豆絞りの手拭だ」
自身、台所から取ってきて、
「じゃちょいといってきます阿母さん」
もうそのまんま土間へ下り立っていた。
「大丈夫かえお前ほんとにそんな装《な
前へ
次へ
全268ページ中222ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 容 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング