犬一匹、松の木ひとつ、噺の中へどうやらそれらしく描きだすことができてきた、全くそれもまたみんなみんな師匠のおかげではないか。
そうして師匠は昨夜大そう怒んなすったけれど、現在師匠に教わらない我流の噺のこんなにも演れだしたということも、私のほうではこれ皆ひとえに師匠が丹誠の賜物とおもっているではないか。
なればこそ、急用あって四手《よつで》駕籠へ乗り四谷の師匠の家の前を素通りするとき、ほんとうに師匠はしらないだろうが、いつも必ずこの私は、
「いって参ります師匠」
またかえりには、
「只今かえりましたがきょうはお伺いできません、どうぞお大事に」
こう駕籠の中で呟いていることが始終《しょっちゅう》ではないか。これを要するに、かくまで、かくのごとくにまで、一から十まで百まで千まで師匠おもって、おもい抜いて止まらざるこの私ではないか。
だのにだのに……だのに師匠はあんなひどいこといってお怒りなすった。こちらに覚えのあることならどんなにも御詫もし、改めも致しましょう、だが正直一途の貧乏人のあばら家へやってきて、大刀突き付け金銀財宝残らずだしてしまえというようなとんでもないこといわれて
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