《うし》ろ幕が落ち、野遠見《のとおみ》となり、すこんからんと見得を切ったがそのまた型の悪さ。「音羽屋」と声かける客さえなかった。シーンと下らなく客席は燻《くゆ》み返ってしまっていた。
 みるから危なっかしいその手つきに、いまにも段取りを間違えドジを踏みはしないかと圓朝、今尚自分の弟子であるかのよう。いつか真剣にハラハラしだした。いっそう眉がしかめられた。だから、やがてどうやら落が付き、今晩これぎりと打ちだしたとき、うそもかくしもなくホッと圓朝は呼吸《いき》をついたくらいだった。
 と見ると、辺りのお客様ははじめ八分がらみいた者がもう二十人そこそことなっていた。


「師匠が楽屋で呼んでますから」
 表へでたとき、このごろ弟子入りしたのだろう十三、四になる筒っぽを着た顔見知りのない前座がやってきて、切口上にいった。
 ふと暗いいやな予感がした。でも振り切ってかえったらいっそういけないだろう。思い切って圓朝は萬朝を表へ待たせ、前座の後からつづいて楽屋へ入っていった。
 狭い楽屋のとっつき[#「とっつき」に傍点]に、大風《おおふう》な顔をして腕を組み、圓太がいた。圓朝の顔を見て、ニコリともし
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