いだぶなんまいだぶ、アオーイ鰌屋《どじょうや》、いくらだ一升、ウ、高《たけ》え高え負けろ、もう二文負けろィ、あれ因業《いんごう》だな、ヤイ負けねえとぶンなぐるぞ、ア負けたか感心なんまいだぶなんまいだぶ、オイ婆さん、早く笊を出してやんな、なんまいだぶなんまいだぶなんまいだぶ、何、因業な割には安い鰌屋だって、ウ、そいつァよかった、じゃすぐお味噌汁《みおつけ》の中へ入れちまいねえ、なんまいだぶなんまいだぶなんまいだぶなんまいだぶ、どうだ入れたか皆、なんまいだぶなんまいだぶどんな具合だよ鰌は、なんまいだぶなんまいだぶ、鰌、皆白い腹だして死んじまったって、態《ざま》ァ見やがれ、なんまいだぶなんまいだぶ……って。これじゃ何にもなりやしません」
 ここまでトントンとひと呼吸に喋ってきて始めてホッと我に返ったように、
「ヘイお馴染の小言念仏、ちょうどおあとがよろし……」
 いいながら何気なく見た廊下には、
「ア!」
 さながら入道雲のよう渋面つくった義兄玄正がニュニューッと一杯に立ちはだかっていた。
「い、い、いけ……」
 このまま心臓の鼓動が止まってしまうかとばかり次郎吉はおどろいた。目を白黒した。
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