まった。うちの[#「うちの」に傍点]小勇が柳派へいってしまったらしいこともやはり自分に祟《たた》っているのだろう。でも永い月日のうちには師匠の機嫌も直るだろう、いまいたずらにここでこんなことを繰り返しているとそこは凡夫、日一日と例の心の澱というやつが大きく色濃く拡がっていってしまうばかりだった。
「当分行きさえしなかったら……そうして自分は自分の道さえ脇目も振らず励んでいたら……」
ほんとうにそんな師匠のことなんか考えているよりも、いま圓朝の目の前には進まねばならない「道」が菫《すみれ》たんぽぽ咲きみだれて、春を長閑《のどか》とあけそめていた。ひたすらそこを進めばよかった。それからというもの、ことさらに圓朝は師匠夫婦の上を思い煩うことを止めてしまった。
そういううちもしじゅう文楽師匠は中入り前のいいところへつかっていてくれたし、中流の寄席ではあるが一枚看板で真を打たせてくれるところも二た月にいっぺん、三月にいっぺんは、でてきた。そのたんび今度は親父の圓太郎にすけ[#「すけ」に傍点]てもらった。日常生活こそからもう[#「からもう」に傍点]意気地なくなってしまっていたが、さすがに好きで
前へ
次へ
全268ページ中189ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 容 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング