れよう。落語家万事、偐《にせ》紫、江戸紫、古代紫、紫、紫、むらさきのこと――芸の落ちゆく最後のお城、御本丸は、ついに「紫」以外の何物でもない、ないのだ。
 こう文楽を聴いていてしみじみと悟った圓朝は、以来話し口を、人物の出し入れを、「噺」全体を、極めて明るく明るくと勤めた。
 果してお客の受けがよかった。席亭も大へん喜んでくれるようになった。
 二軒、三軒――だんだんいい寄席の、深いところへでて喋れるようになった。
「あの落語家は若いけれど、もの[#「もの」に傍点]になりそうだ」
 誰もがこういいだしてきた。人気。自分という一しか値打のないものを選ってたたって傍《はた》が二十、三十にとせり上げていってくれる、何ともいえないありがたいもの。人気というものの幸福感をはじめて圓朝は、身近に知ることができた。
 ……でもその頃から目に見えて甲州からかえってきていた師匠圓生の受けは悪くなった。逢いにいっても機嫌の悪い顔ばかりしていたし、たまに楽屋で面とむかってもプリプリ怒ってばかりいた。
 が、自分としては少しでもでてきたこの頃の人気。師匠に喜んでもらえこそすれ、怒られることなんかした覚えはひと
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