くして、あべこべに漠々たる暗雲が十重二十重に、前後左右を追っ取り囲んできた。そうしてこの暗雲は三年五年十年かかっても、消えてはゆかない思いがした。ばかりか、日一日と重なり重なってこの自分を、押し潰してしまおうとするもののようにさえ考えられた。
 身体中の骨という骨が今に離れてゆく感じだった。
「…………」
 母親の顔を見るさえきまり悪く、やけくそに夜寒の井戸端でザブザブ水を浴びると圓朝は、そのまま自分の寝床へ入って、煎餅蒲団を引っかぶり、燻《くゆ》み返って寝てしまった。
 ……でも。
 一夜明けると、不思議に圓朝の心はまた、カラリと雲が切れていた。その切れ目から、薄日ではあるが、僅かにキラリと顔覗かせてくる朝日の光りがあった。
 しらないうちにまた活き活きとしたものが、少しずつでも節々に蘇ってきてはいるのだった。
 やる。
 どうしてもやるぞ。
 ヌクッと床の上へ起き直って、別人のごとく圓朝は叫んだ。


     五

 大晦日ギリギリに中橋の桂文楽師匠のところから使いがきた。文楽師匠はあれから一年ばかり上方へいっていたし、こちらも端席歩きをしたり何かしていて随分掛け違って会わなかっ
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