そこの寄席、かしこの寄席と掛合って歩いた末が、駒込の炮碌《ほうろく》地蔵前の、ほんのささやかな端席だった。それが初めて圓朝のトリを肯ってくれた。しょせんが師匠がかえってきて喜んで貰うべく報告にいけるほどの結構の寄席じゃなかったけれど、せめても師匠の留守のうち、このくらいのことはこっそりしておいて、よくやったお前といわれたかったのだった。それに初めて招き行燈へ上げた「三遊亭圓朝」の五文字。
薄寒い秋の日暮れ、その寄席の前へ立ってその五文字を眺めたとき圓朝は、鏡の中の我れと我が顔をほれぼれと見入っている思いで、いつ迄もいつ迄もその前を立ち去ることができなかった。
ねがわくば楽屋入りなんか止しにしてしまって、ひと晩中この寄席の前へ立ったまんま、ジーッとこの招き行燈を見守っていたかったくらいだった。
でも……。
「本郷もかねやすまでは江戸の内」とうたわれたそのころ、駒込の炮碌地蔵前ときては場末も場末、楽屋の窓を開けると、裏がすぐ覆いかぶさりそうな竹林で、そのまた向こうがいちめんの畑になっていた。
秋寒い夜風の中で、小止みない竹の葉擦れとともに、狐のなく声が聞こえた。
圓朝はここを先
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