こりゃ。じゃちっとも重宝じゃありゃしない。圓朝はまたふきだしたくなってきた。
「親方ンとこの、いえ親方ったって私の伯父貴なんだけれどね、そこの煤掃き手伝いにゆくとあとで軍鶏《しゃも》で一杯飲ましてくれるんです」
 藪から棒に今度はまたこんな奇妙なことをいいだして、
「その軍鶏で御馳走《ごち》になりてえ一心で私ァ一昨年《おととし》手伝いにいったんだ、そうしたら畳を上げたとたんに親方がどっかの殿様から拝領したって、ひどく大事にしている御神酒徳利を三つぶッ壊しちまってね。そうしたら親方がいいましたぜ、もう来年からお前だけは手伝いにこないでいいって」
 当り前だよそりゃ。いよいよ圓朝は唇を噛んで笑いを耐えていた。そのとき汗っかきとみえて豆絞りの手拭で汗拭きながら、その男は表の樋をつたって流れる雨音に負けないような大きな声で自分のほうが勝手にゲラゲラ笑いだした。ア、分った。汗を拭くところを見ておもいだした、似たとはおろか瓜二つ、うちの阿父さん圓太郎をそっくりそのまま若くしたんだ、この顔も、それから声も。いやどうも、じつに似ている。時が時だけ、他人事ならず圓朝はいっそなつかしいものにおもわれた。

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