御加護と吉兆をおぼえて、満面を喜悦の微笑にほころばしながら圓朝は、母親の持ってきてくれた雑巾で足を拭き、ぐしょ濡れの着物もそのまま薄暗い座敷へ上がっていった。
「うわ、こりゃ――」
吃驚したような声を立てて二十二、三になる円顔の男が、ペタッと蟇蛙《ひきがえる》のように両手を仕えた。誰かに似ているなとおもったが、ちょっとおもいだせなかった。
「圓朝です、私が」
得意のような面羞《おもはゆ》いようなものを感じながら圓朝は、丁寧に頭を下げた。
「ア、師匠ですか。すみません、ごめんなさい、悪うござんした」
いたずらをみつけられた子供がするように、ピョコンとひとつ頭を下げた。何ちっともこの人の悪いことなんかありゃしないのに、へんな奴が入ってきた、ふきだしたくなるのを圓朝は耐えていた。
「菊てんです、大工なんで私《あっし》ァ。しとくんなさいなお弟子に。その代り何でもやります手摺をこさえるんでも棚吊るんでも本箱こしれえるんでも。重宝です私ァ」
ニュッととぼけた顔を突き出して自分の鼻に指をさしながら、
「でも大工よかほんとは私ァ落語家のほうが好きなんで。じつァ大工は拙いんです」
な、何だい、
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