たお線香二本、つづいて圓朝は左右の線香立てへ供えた。ユラユラうすむらさきの煙りが立ちのぼって、やがてそれが思い思いの形に折れた。そうして、流れた。
 ……町内随一の大|分限《ぶげん》の身代が次第々々にぐらつきだし、今ではいたずらに大きなそこの土蔵の白壁の、煤け、汚れ、崩れ果てて、見るかげもなく鬼蔦《おにづた》の生い繁り、鼠ほどもある宮守《やもり》の絶え間なく這い廻っている……そうした何ともたとえようない寂しい儚ない浅ましい景色を、圓朝は目に描かないわけにはゆかなかった。
「……もし初代さま、大《おお》師匠さま」
 すっかりお墓の掃除をすますと、改めてサーサーッと手桶の水を墓石の上から流し、なるべく大きな美しい樒の葉を一枚むしって、その葉ではね返すように小さく手向《たむけ》の水を上げると、心からなる声で呼びかけた。
「お願いです、お願いでございます。私ども、子供心に覚えております。あなた様御在世のみぎりはこの三遊派、大した御全盛でございました。それが只今では御覧の通りの見るかげもない有様となっております。残念でございます私は。どうか、どうか、三遊派を、昔の……昔のように私は……」
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