う》臭い荒寺の壁の中で死んでしまうなんて。
 いやだ……いやだ……俺いやだ……いやだったらや[#「や」に傍点]だや[#「や」に傍点]だや[#「や」に傍点]だ。
 まるで手籠めにでもなるのを阻《はば》むもののように床の中で次郎吉は、必死になって身悶えした。バタバタ手足を振り動かした。いつ迄もいつ迄も繰り返した。繰り返してはまた繰り返していた。
 でも……。
 泣き寝入りに寝入ってしまうとよくいうけれどさすがに昼の疲れがでてきたのだろう、やがてグッタリその手足も動かなくなると、間もなく魘《うな》されているような荒い鼾をかきはじめた。いやことによると鼾ではなくほんとうに魘されていたのかもしれない。もう消え消えな燈芯の灯の中に浮きだしている次郎吉の額へは、可哀《かあい》や物の怪にでも憑《つ》かれたかのようにベットリ脂汗が滲みだしてきていた。
 ……。


     三

 翌朝。
 晴れているのに少しも日のさし込んでこないガランとした冷たい本堂の真っ只中に、次郎吉はたったひとり坐らされていた。
 お経文の稽古だった。
 庭先のほうの明るく晴れて見えるだけ、いっそう身の周りの一切が寒々と凍えてい
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