ささかもそんなお心持と知らねえで逆怨みしていたこの俺がみっともない。
 ごめん――ごめんなさいね師匠。
 涙ぐましく口の中でこういいながら、そうなってくると俺の首根っ子を掴んで高座から引き摺り下ろし、さんざ悪口のありったけをいったあの宮志多亭の雷隠居も、俺にとっては大きに大恩人の一人かもしれない。
 ……あの空っ風の晩の「桂文楽」と筆太にしたためた宮志多亭の招き行燈が、目にアリアリと蘇ってきた。「桂文楽」と書かれた文字はそのまま小意気な文楽師匠の顔に変って、
「そうだ、そうだとも、その通りなんだよ、よくお前さん」
 悟ったねえ――と、心から微笑んでくれているように感じられた。
 いつか師匠の家の庭を掃きながら落語家を廃めることを思い直したあのとき以上に自分の前後左右がパーッと何だか明るくなって、そこら道ばたに転がっている石ころのひとつひとつさえが、ありがたくてありがたくてならないもののよう考えられてきた。往来のまん中へペタッと坐って、誰にともなく、いや道行く人のありったけに、
「ありがとう、ありがとうございます」
 と心から大声で御礼がいいたいくらいだった。
「危ねえ若僧、殺されちまう
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