。たったいっぺん国芳師匠のところにいたとき到来物があったのを、上戸の師匠が要らないといい、兄弟子たちとひと片《きれ》ずつ頬張ったばかりだった。いまその乏しい体験の手付きや味わい方をにわかに再現しろといわれたところで……。
中でも一番泣かされたのは鱈昆布《たらこぶ》の汁の吸い方だった。まずフーフーと二度三度お汁を吹き、舌の上で昆布だけ味わい、たべてしまい、鱈は鱈で巧い具合に舌でころがし骨をだし、それを手でこう抜き取っていく、僅かこれだけのことなのだけれど、どうしてもそれが巧い具合にゆかなかった。巧い具合にも何にもてんで[#「てんで」に傍点]型が付かなかった。
「馬鹿野郎、そんなに頬ぺたを膨らがしちまう奴があるか、あれまた、膨ら……そ、それじゃ小僧が団子を頬張ってるところだ。見てろ、俺のやるのをよく」
再び師匠は右手に扇子で箸を象り、左手の指を少し丸くしてお椀とみせ、フーフーお汁を吹きながら、昆布を、鱈を、鱈の骨を、あるいは食べ、あるいは抜き取るところとじつに如実に見せてくれるのだったが、
「ホレ何でもないじゃないか。サ、やっておみ」
ド、どういたしまして。「何でもねえ」どころじゃな
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