つづいてそうしたちょっとした心掛ひとつだが、なかなか気の付かない呼吸も教えられた。お湯は熱いかぬるいかの加減を表情に示すだけでよかったが、お茶はさらに舌の上で味わいを吟味してみせる表情が必要。それが両者のちがいだった。
 四季それぞれの水の飲み方。
 寒さ暑さで飲む人への心持もちがうだろうし、息せき切ってきた人の水の飲み方と、酔醒《すいか》の水千両の飲み方ももちろんちがった。
 二階で話している人の声と塀の節穴から呼んでいる人の声。
 二階の話し声はあたかも紙一重隔てているがごとく聞こえなければならなかったし、節穴からの呼び声は火吹竹を口へあてがって喋るごとき、そうした音声に聞こえなければ決して、「真」とはいわれなかったのだった。
 扇を箸に、蕎麦とうどんの挟み分け方も難かしければ、いろいろのたべ物のたべ分け方もまた大へんだった。
 しかも師匠は皮肉でへん[#「へん」に傍点]なものを食べるところばかりを次々と稽古させた。
 まず羊かんはいいとして、長崎土産カステーラを食べてみろといわれたにはハタと困ってしまった。あんな珍しい高いもの、お恥しいがまだ小圓太はろくに食べたことすらなかった
前へ 次へ
全268ページ中111ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 容 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング