借りると、世にも奇妙な味の雑炊をたべさせられる。
 しかもときどき舌へ絡みつくものがあるので、
「何ですこれは」
 と和尚様に訊くと、
「藁だよそれは」
「エ、藁?」
「ウム」
 ニッコリと和尚様は笑って、
「お前その藁をたべるとお腹ン中がよく暖まる」
「壁じゃあるめえし」
 というくすぐり[#「くすぐり」に傍点]がある。
 何のことはない、その藁入りの雑炊もかくやとばかりのここのお寺の雑炊だ。
 とすると俺たちもおっつけ壁になる口か。
 いや、なるかもしれない。
 ほんとに――ほんとにこんなお寺の生活《くらし》なんて、しんからしんじつつまらなくって、壁も壁も大壁みたようなものだろう。そうしてこの自分もまた、次第にその大壁の中へ塗りこめられていく一人となるのだろう。
 そう、まさにそれに違いない。
 ……そのように考えたとき次郎吉は、にわかに父圓太郎がよく高座でつかう十七文字がゆくりなくもおもいだされてきた。
 エーエーとあれは、む、む……む……そうだ、「武玉川《むたまがわ》」だ、たしかそういう発句の本だっけ、その中の句を引事《ひきごと》にしちゃ、阿父《おとっ》さんこういったんだっけ、
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