のだった。
浜納豆に金山寺味噌、たしかにそうと次郎吉は睨んだ。
どちらも美味しくない、およそ次郎吉の虫の好かないたべものだった。しかもここへきてもう三晩、たいてい毎晩和尚様はあのお菜だった。
他人事《ひとごと》ながらあんなお菜ばかりたべていなければならない和尚様が気の毒で気の毒で仕方がなかった。
でも……。
和尚様よりこの俺たちのお菜ときたら、またもっとひでえや。
最前の仇辛い雑炊の舌ざわりを、悲しく次郎吉は舌の上へ喚《よ》び戻していた。何とも彼ともつきあい切れない味だった。味も素ッ気もないとよくいうけれど、まだそのほうがいい、味のあるだけいっそう情ない代物だった。
ほんとに何て雑炊なんだろう、ありゃ。
阿父さんがよく宿酔《ふつかよい》のとき、深川茶漬といって浅蜊のおじやみたいなものをこしらえ、その上へパラリと浅草海苔をふりかけたのをよくお相伴させて貰った。けれどあれとこれとじゃうんてんばんてん[#「うんてんばんてん」に傍点]の違いがあらあ。
ひでえにもひどくねえにも、よく仲間がやる落語に「万金丹《まんきんたん》」てのがあって、道に迷った江戸っ子二人、山寺へ一夜の宿を
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