じめていこうといういまの境遇では相手はかりにも席亭の御隠居様、そんなことおもいも及ばなかった。
 でも、このまんま今夜ムザムザ引き取ってしまうことは――。
 口惜しさに恐らく血が騒いで、師匠の家へかえっても夜がら夜っぴて寝られないだろうとおもった。
 では、どうしたらこの自分は一体。
「ウーム、よし」
 いきなり小圓太は前屈みになって掴んだ、手ごろの石を。
 発矢《はっし》!
「宮志多亭」と書いてあるあの招き行燈へぶっつけて、せめてもの腹いせにしようとおもったのだった。
 しっかり手の中の石を握った。そして二、三度宙で振ってピューッ、あわやぶっつけようとしかけて、それもまた止めてしまった。
 だって――。
 巧く正面の席亭の名前のところへ当ればいいけれど、ひとつ間違って脇の芸人さんの名前の書いてあるところへ当ったら……。
 何かにつけていまこの自分を引き立ててくれていておくんなさる文楽師匠のお名前へ、石をぶつけてしまうことになるではないか。ましてや破いてしまいでもしたら。
 ……とするとこれもできなかった。
 でもやっぱりあとからあとから尽くるところしらぬ憤ろしさはこみ上げてくるばかり
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