相手の顔を見るなり、「あの、おやつさん、たのみがあるのですがおやつさん、ほんまにたのみますわ、おやつさん、なあおやつさん」と云ふ男を、なぜ、おやつさん/\とぬかすのかと叱り、代つてもう一人の連れに話をさすと「いえ、なあ、おやつさん、ほんまにおやつさん、この男のやうにおやつさんつかまえておやつさん/\ぬかしたら、そら、おやつさんかて困るやろとおもふのやが、おやつさん」「お前の方が、おやつさん多いやないか」「アハツ、ほんにおやつさん」「未だぬかしてけつかる」(「ふたなり」)
 一読、どうしてこんなバカ/\しいことを、大真面目に考へてゐるやつがあるかと云ふことを考へて、更めて噴飯さずにはゐられないだらう。
 その「ふたなり」では、狸に手の指を咬まれたとおもひ、片手を出して勘定する、ところが親指を一、人さし指を二、中指を三、薬指を四、小指を五とかぞへるまではいいが、その小指を再びかぞへることを忘れ、薬指を六、中指を七、人さし指を八、親指を九とかぞへて「ア一本やられた」と青くなる、さらに親指と人さし指の間を拡げて見て、ここがこんなに広いからここを一本やられたのやとガツカリする、こんなバカ/\しい
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