な漫才の横行にもその人気を奪はれた。借金もいよ/\嵩んだ。そこで差押へになつたとき、朝日新聞社が撮影に行つたら、傍への物品に貼つてあつた差押への紙を一枚貼がし、ペロリと出した舌の上へ貼付けて写真を撮つた。その見舞にいつた門人の小春団治へは、何十年となく芸人は借金しろ/\と云つてゐた彼なのに流石にその朝許りはすつかりとガツカリしてゐて、その顔を見るなり、
「オイ、芸人は借金したらあかんぞ」
 と云ひ、
(今ごろ、もう、遅いわい)
 と腹の中で、小春団治をして噴飯させた。
 この二つの挿話はいづれも春団治の面目躍如たるものがある。このやうに彼は春団治落語中の爆笑人物と同一系歴の性格であり、日常であつた。重ねて云ふが、であるから、彼の荒唐無稽には真実籠るものがあつたと云へよう。
 今日、いろいろのレコードに彼の十八番物はのこつてゐるが、ニツトーレコード以外のものはみな面白くない。ニツトーは多年専属で馴染であつた故、吹込以前に社員と馬鹿話をして吹込むので味がでてゐる。他社のは他人行儀に吹込んだ故、脂が乗つてゐない。ここらも春団治のいいところではないかとおもふ。
 昭和九年秋、中村鴈次郎と相前後
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