、主人公の八さんや熊さんをそっくり自分の通りのモズモズしていてしかもまぬけな男にし、あくまでモズモズとしたおかしみで押し通しました。たいていほかの人たちの八さん熊さんは頭のてっぺんから声を出し、ベラベラベラベラとんちんかん[#「とんちんかん」に傍点]なことをまくし立てるのばかりだったもので、このいき方はたいそう型変わりだとてお客さまにめずらしがられ、これもすっかり受けました。「猫久《ねこきゅう》」「水屋の富」「笠碁《かさご》」「碁泥《ごどろ》」「転失気《てんしき》」、みなこの呼吸の男を出して、よろこばれだしました。
 そそっかしい一面の自分のほうは、「堀の内」「粗忽《そこつ》長屋」「粗忽の釘」のなかでみんなそっくり地でいきました。自分にはわかりませんが、なにしろほんとうに私がそそっかしいため、ただ単に噺でおぼえたほかの人の粗忽噺とはどこかちがったほんとうらしいところがあるらしく、これもことごとくよろこばれました。
 なにより音曲とモソモソした八さん熊さんと地でいくそそっかし屋と、これだけでこの間のうちまでとは比べものにならないくらい私の噺は明るくおかしく華やかになってきました。もうこれ
前へ 次へ
全34ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 容 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング