喉《のど》。音曲です。なにしろなにがなんでも常磐津家寿太夫。常磐津は当然至極として、そのほかの小唄|端唄《はうた》、まず自分で言ってはおかしいが、駆け出しの音曲師は敵ではないほど歌えるということです。
あとの二つの特色はいずれもいいほうじゃなく、むしろいけないほうでしょうが、落語家には珍しくぶッきら棒で、口が重い。さらにもうひとつ、そのくせ、バカにそそっかしい。まあ、これだけです。さてこの三つをことごとく長所にしてしまおうと美《い》しくも覚悟を定めてしまったことなのです。
ほんとうにいままで自分は愚《おろか》で、教わった原本にないからとて、どの噺のなかでもいっぺんも歌うことなしにきていました。これはとんでもない宝の持ち腐れ。さっそく、それからは「天災」でも「千早振る」でも「小言幸兵衛」でも「替り目」でも、なかの八さんに、熊さんに酔っ払いに、ときとして大家さんに、隠居さんに、急所急所で常磐津のひとくさり、端唄のひとくさりを唸らせることにしました。果たしてたいへん噺が明るくなってきて、唄のところでは喝采さえあり、前後が水際《みずぎわ》立って光ってきました。
重たい口調を活かすためには
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