をはじめ、数多の人を殺《あや》めます。『吉原百人斬』のうち、宝生栄之丞住居の一席、尊いお耳を汚《けが》しましたが、この辺で、終りを告げることにいたします」
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 伯龍の「吉原百人斬」は、八つ橋と栄之丞が歓語の章《くだ》りより、八つ橋は全然かげ[#「かげ」に傍点]にゐるこの住居のシーンの方が、余程艶麗である点がおもしろいとおもふ。
 近世、この「百人斬」を得意とした人に、講談では錦城斎典山、浪曲では春日亭清吉があつた。今日では、講談に馬秀改め小金井芦洲、桃川如燕があり、浪曲で桃中軒鶯童が数へられよう。
 人情噺では、御一新のころ、初代小さん(春風亭《しゆんぷうてい》をなのつてゐた)があつて、此を十八番としてゐた。
 この小さんは、美音で音曲にも長じてゐたが、ひどい大菊石《おほあばた》でその醜男《ぶおとこ》が恐る可き話術の妙、傾城《けいせい》八つ橋の、花に似た顔《かんばせ》の美しさを説くと、満座おもはず恍惚となる。
 さんざ悦惚とさせておいて、
「さてそれに引代へまして、相手の次郎左衛門はと申しますと、とんと私のやうな顔で」
 と、ヌーツと自分の
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