吉原百人斬
正岡容

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)空板《からいた》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)精魂|含《こ》めて

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぐるり[#「ぐるり」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)たび/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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    序章

 随分久しい馴染だつた神田伯龍がポツクリ死んで、もう三年になる。たび/\脳溢血を患つてゐた彼だつたから、決してその死も自然でなかつたとは云へまいが、兎に角直つて平常に高座もつとめ、酒も煙草も慎んでゐた丈けに、やはりその死は唐突の感をおぼえないわけには行かなかつた。

 死ぬ前日、彼はある寄席の高座で、必らずいつもは、
「……云々と云ふ物語を、こんな一席の講談に纏めて見ました」
 かう云つて結ぶのに、その日に限つて、
「永々の御清聴を感謝いたします」
 と云つて下りて行つたさうだ。
「永々」とは、蓋し彼が前座で空板《からいた》を叩いてゐた昔々から、老後の今日に至るまでの、満天下の聴衆
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