寄席のちらし

 たのまれて書いた戯作調の広告文は、やはり寄席や噺家のが多い。
 やがては散逸してしまうであろうから、この小片へ書きつけておくこととした。

    口上

 昔を今に百目|蝋燭《ろうそく》、芯切る高座の春宵風景、足らわぬながら再現したく、時代|不知《しらず》とお叱りを、覚悟の上で催したるに、しゃーいしゃーいの呼び声も、聞こえぬほどの大入りに、ありがたいやら嬉しいやら、中席十日を限ってさらに御礼興行|仕《つかまつ》りますれば、銀座柳も蘇る今日、昔恋しい三遊柳、当時の繁昌|喚《さけ》ばしめたまえと、新東京の四方様方に、伏してお願い申し上げます。
[#地から1字上げ](昭和七年四月、神田立花亭、初めて古風な蝋燭仕立ての会をせし時)

    口上

 薫風五月夏祭、神田祭を今ここに、寄席へうつして短夜を、花万灯や樽神輿、さては揃いのだんだら[#「だんだら」に傍点]浴衣、神器所《みきしょ》の灯火眩ゆくも、いや眩くも千客万来、未曾有の評判得させたまえと、立花亭主になり代わって「祭の夕」の軒提灯にあかあかと灯をさし入れるは、昭和戯作者の末座につらなる。
[#地から2字
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