寄席行燈
正岡容

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)儚《はかな》い

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)春風|柳《やなぎ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#歌記号、1−3−28]
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   秋色寄席懐古


 秋になると、あたしの思い出に、旧東京の寄席風景のいくつかが、きっと、儚《はかな》い幻灯の玻瑠絵《はりえ》ほどに滲み出す。
 京橋の金沢――あすこは、新秋九月の宵がよかった。まだ、暮れきって間もない高座が、哀しいくらい明るくって、二階ばかり[#「二階ばかり」に傍点]の寄席(旧東京の、ことに、寄席にはこういう建築が多かった。神田の白梅、浅草の並木、みんなそうだった。明治の草双紙の、ざんぎり何とかというような毒婦ものでもひもといたらきっとこういう寄席のしじまは挿絵に見られる)から、それこそ錦絵そっくりの土蔵壁が、仄《ほの》かにくっきりとうかがわれた。
 三十間堀あたりの町娘や、金春《こんぱる》芸者のひと群が、きっと、なまめか
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