貫禄を示している初代春風亭柳枝が、でっぷりとした赤ら顔を提灯の灯でよけい真っ赤に光らせながら門人の柳条、柳橋を従え、にがにがしくこちらを見守っていた。元は旗本の次男坊で、神道にも帰依したといわれる柳枝は、自作自演の名人で、なかには「おせつ徳三郎」や「居残り佐平次」のような艶っぽい話もこしらえたが、根が神学の体験を土台に作った「神学義竜」や「神道茶碗」のほうを得意とするだけあって、頑固一徹の爺さんだった。
従って、彼は圓朝が時世本位に目先を変えてはでっち上げる芝居噺のけばけばしさを、心から軽蔑していた。
「落語家は落語家らしく、扇一本、舌三寸で芝居をせずば、ほんとうの芝居噺の味も値打もあったもんじゃあねえや。それが、あの圓朝ときたら、どうだ。長唄のお囃子を七人も雇いやがって、居どころ変わりで引き抜いて、とんぼは切る、客席へ掘り抜け井戸を仕掛けて、その本水で立ち廻りはしやあがる。まるで切支丹|伴天連《ばてれん》じゃあねえか」
いつも柳枝はこう罵っていた。
「それもいいや。それもいいが、あげくに芝居の仙台様が、お脳気を患いやあしめえし、紫の鉢巻をだらりとして、弟子の肩へつかまって、しゃな
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