のような火華をちらした。
 麻の葉は薄暗の漂った部屋の中、圓朝の頭の上を低く高くちらばって、ふたたび火力が弱まり出すと、今度は光琳の蒔絵のような細やかな柳の葉をすいすいすいすい描き出した。
 その一本が消え落ちる頃、如才なく圓遊はいっぽうの手の次の花火を点火していた。
 花火は、またしても麻の葉をちらした。
「ああありがてえ。両国だ。川開きだ」
 今昔の感に堪《た》えないように圓朝は初めてニッコリ笑った。
「いい花火だなあ。今のは五百両もするだろう。……あ、またあがった。星下りだ。おや、上り竜だ。菊に国旗だ。……あ、あ、あ、万八のうしろへ消えた……」
 だんだん嬉しそうな表情になりながら、圓朝は、他愛もないことを言い出した。
「よっぽど、脳《これ》へきてるんだ」
「これが一代の三遊亭圓朝かと思えば……」
 圓生と圓楽は互いに顔を見合わせた。そして、そのままうなだれた。すすり泣きの声が誰からともなく洩れてきた。やがてみんながみんな、音に立てて泣き出していた。花火片手の圓遊までが。
 が――が、この憂い、この嘆き、この悲しみ、すべて事情をなにもしらない弟子たちの手前勘にすぎなかった。ああ、
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