新聞紙に包んだものをぶら下げて、勝手元から顔中が鼻ばかりみたような飄逸な顔を見せたのは、滑稽噺とすててこ[#「すててこ」に傍点]に市井の麒麟児と歌われそめた三遊亭圓遊だった。
「いけねえんだ。まるっきり、もののあいろ[#「あいろ」に傍点]がつかねえもの」
「あと十日とは、もつめえよ」
氷を砕《か》いていた圓生と勢朝改め圓楽は、代わるがわる圓遊の顔を見上げて言った。
「そんなにひどいのかい」
「なにしろお前、五、六日、そうだ両国の川開き前後からだ、花火が見てえ見てえって、子どものように駄々をこねて困るんだよ。そのくせ、物干しへ連れて上がったって、仰向いて空を見る気力なんざあ、とてもおあんなさらねえんだがね。なにしろ、花火花火って取っ憑《つ》かれたようなんだよ」
悲しそうに圓楽は口を尖らせた。
「さ、それをちょっとさるところから聞いたから、今日は師匠の土産に、これを持ってきたんだよ」
新聞紙包を差し出して圓遊は、
「線香花火がたくさん入ってるんだ。これなら、師匠の枕もとで楽に上げられるだろう」
「なるほど、こいつはオツリキだ。線香花火たあ、いい趣向だ」
「やっぱり圓遊は圓遊だけのこと
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