…」
「そンなものを、事もあろうに元日早々、盛り場へ持ち出してって売ったら、縁起でもないって半殺しにされちまうわよ。それに売ろうたって今時分、盆提灯なんぞどこの提灯屋にもあるもンですか」
「…………」
「第一、教えた人がいけないわ。よりによってお前さん、ホラ[#「ホラ」に傍点]今さんじゃアないの」
高座の今輔のほうを、チラリと彼女は見た。
「世のなかにあンな法螺吹《ほらふ》きあるもンですか。口から出放題のでたらめばかり言っちゃ、しょッちゅう皆を担《かつ》いでる人じゃないの。そンな人の言うことでもやっぱりあんた信用する……?」
「ア、そうか、ホラ今かア」
はじめてシマッタという顔を、彼はした。そうだそうだ、平常《ふだん》からとても人の悪い今輔の野郎だったッけ。エエそうだッけ、俺としたことが――。
「ネ、わかったでしょう」
「わかったわかったよ、すッかりわかった。畜生、今輔の野郎ひでえ野郎だ。とんだ恥をかくところだった、ほんとにほんとに……」
しばらく口惜しがっていたけれど、
「ありがとよ、お八重ちゃん」
ピョコリとひとつお辞儀をした。
「アラいいのよそんなお礼なんか。それよりわか
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