暗い傍らにスッと立っていた。ついこの間母親に死なれ、今では圓朝の家に引き取られている下座のお八重だった。
「ア、お八重ちゃん」
 柄にもなく顔中を真っ赤にして圓太郎は、ドキマギした。


  お八重

「お前さん、さっきの話、ほんとに儲かると思ってるの」
 勝次郎の帰ったあと、お八重は言った。
「ウン」
 圓太郎はコクリとした。
「ほんとに」
 牡丹の花のようなお八重の顔が、ジイーッと覗き込んできた。
「だって盆と正月が一緒にくる商売を始めるンじゃねえか。古今亭の兄貴が太鼓判を押したンだ。儲からねえはずがあるもンかな」
「マー、じゃアやっぱりあんた本気にしていたのねえ。注意してあげてよかったワ」
 大柄の弁慶縞の襟をかきあわせて、お八重はホッとしたようだった。思いなしか、ランプの光に浮き出しているパッチリした美しい目が濡れていた。
「ネエ、圓太郎さん。よく考えてみてちょうだい。お盆てものはお迎火を焚いて仏様をお迎えするときなのよ。だからどこの家でも坊さんを呼んでお経をあげるのよ。盆提灯てのはつまりそのときに吊り下げるものなのよ。死んだ人のために吊すお提灯がなんでおめでたいの」
「………
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