と正月をいっしょくた[#「いっしょくた」に傍点]にしたものを売ろうてンだ。儲からねえわけがねえや。これが売れなきゃ東京は闇だ」
おかしさを耐えて彼は言った。
「わかったわかったよ。なるほど盆と正月か。そうだ、まったくその通りだ、ホ。こいつァ素晴らしい金儲けができそうだネ」
いつか、圓太郎はホクホク相好を崩していた。
「どうだ。いい思案だろう。その代わり圓太郎、儲かったら俺にパイ一飲ませなけりゃダメだゾ」
「あた[#「あた」に傍点]棒だよ。そのときァなんでも兄貴の言う通りのものをおごってやらア」
圓太郎はもうすッかり一陽来福の新玉《あらたま》の春がやってきたような明るい気分にさえ、なってきている。そのとき拍手の音が五つ六つ起こって、勝次郎が下りてきた。入れ違いに今輔が高座へ上がっていった。が、圓太郎は腕こまねいたまま、そのほうへ目もくれないでいた。目前に迫った金儲けのことを考えて、しきりと心が舌なめずりをしているのだった。
「お前さん、ネエお前さんてば」
歯切れのいい若い女の声が、耳もとでした。
ハッと圓太郎はわれに返った。色白の目鼻立ちの粗く美しいキリリとした女が、大太鼓の薄
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