なところへ持ってって売るんだ」
「売るンだってなにを売るのさ」
「お精霊《しょろ》さまンときブラ下げる盆提灯があるだろう」
 一段と声を低めて今輔は、
「あいつを売るンだ。元日の朝なら羽が生えたように売れてゆくぜ」
「フーム、そうかなア。だけど兄貴、俺よく知らないけど盆提灯ての暑い時分に吊るもンだろう」
「そうよ」
「ホラ、あの蓮の花の絵や萩の絵やそれから夕顔の絵のくッついてるお提灯だろう」
「そうよ」
「ハテあんなものが三両になるかなア。いったいどういうわけで暑い時分に売るものが今頃羽が生えて売れて……」
 圓太郎はどうしても腑に落ちないらしい顔をした。
「わからねえヘチャムクレだなア。暑い時分のものを、元日に先を見越して売るから、ずんと儲かるンじゃアねえか」
 いよいよ今輔は大真面目に、
「オイ考えてみや圓太郎。一年中でいちばんめでたいのは正月だ。その次が盆だ。世間でも中元大売出しってワイワイ騒ぐだろう。いいか。そのめでたい正月に盆提灯を売りに出るンだ。たいてい縁起を祝って買うだろうじゃねえか」
「ア、なるほど」
「たとえにも言うだろう。だから盆と正月が一緒にきたようだって。その盆
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