圓太郎馬車
正岡容
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)落語家《はなしか》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一斗|桝《ます》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#丸印、57−10]
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長屋の花見
暮れも押し詰まった夜の浅草並木亭。
高座では若手の落語家《はなしか》橘家圓太郎が、この寒さにどんつく布子《ぬのこ》一枚で、チャチな風呂敷をダラリと帯の代わりに巻きつけ、トボけた顔つきで車輪に御機嫌を伺っていた。
クリッとした目に愛嬌のある丸顔の圓太郎がひと言しゃべるたび、花瓦斯《はなガス》の灯の下に照らしだされた六十人近いお客たちは声を揃えてゲラゲラ笑いこけていた。こんな入りの薄い晩のお客は周囲に気を兼ねて、えてして[#「えてして」に傍点]笑わないものである。いや現に今夜のお客も、最前まではその通りだった。それが圓太郎が上がってから、にわかに爆笑の渦が巻き起こった。
「ウッフッフッフ」
「ワッハッハッハ」
ひッきりない
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