えたって橘家圓太郎は文明開化の落語家だからネ。人間万事独力独行さ。第一そのほうが成功したときに精神爽快を覚えるよ」
「オヤッこん畜生。黙って聞いてりゃアたいそう七面倒くせえことを言い出したゾ。精神爽快を覚えるよだっていやがら。てめえ、そんな難しい言葉、どこで覚えた……?」
「宝丹の広告で覚えたよ」
シャーシャーとした顔で圓太郎は、答えた。
「やられた。なるほど。守田宝丹たア気がつかなかった。なら圓太郎。さしあたりこの暮れに独力独行、精神爽快を覚える金儲けを教えてやろうか」
「そんなものアありゃしめえ」
「ところがあるンだ。お前がやりゃア必ず儲かる。たんとのことにもいくめえが、元日一日で三両か五両には確かになる」
「エ、三両か五両だって――」
にわかにペタペタと座る圓太郎、今輔の傍へいざり寄っていった。
「現金な野郎だな。金儲けだって言ったらすぐに座っちまやアがった。しかし圓太郎、お前、ほんとにやる気か」
「やる気だやる気だ、兄貴頼むから教えてくれ」
「じゃア元旦の朝、烏《からす》カーで飛び起きて、浅草の仲見世でもいい、両国の広小路でも、芝の久保町の原でもいい。なるたけ人の出盛りそう
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