っておくれでほんとによかったわ。でもこれからもあることよ。みんなそりゃ人が悪いンだからよっぽどあんた気をつけなくちゃ……」
「ウン、ウン」
おとなしくうなずくと、
「じゃ、ありがとう。またあしたの晩」
テレくさいのか、プイと立ち上がってそのまま楽屋口から出てゆこうとした。
「ア、ちょっと待って圓太郎さん。明日の朝早く、おッ師匠さんが来てくれって。なんだかお前さんに話があるンですって」
「エ、師匠が。いけねえ。また小言じゃねえかしら」
日常生活にカラ[#「カラ」に傍点]だらしのない圓太郎。小言ときたら番毎《ばんごと》だった。チョイと心配そうな顔をした。
「サー、なんだか知らないわ。でもたぶん小言じゃないでしょう。もしも小言だったってだいじょうぶよ。そンときはあたし、あやまってあげるわよ」
「ウム。なにぶん頼んだよ」
「引き受けたわ。だから安心して……」
お八重はニッコリ笑ったが、
「ア、そうそう圓太郎さん、お前さん春のお小遣いないンでしょ。ないンだったらおッ師匠《しょ》さんにおもらいなさいよ。言いにくいンだったら言ってあげてもいいし、もし少しくらいだったらあたしだってなんとかなる
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