も止まず、いつまでもいつまでもお客は笑いどよめいていた。その笑い声に送られて、ノソノソ圓太郎は楽屋へ下りてきた。が、やっぱり今の長屋の月番先生みたいなまぬけまぬけした姿の彼であることに変わりはなかった。
「アア、いい春だった今夜は」
前座の汲んで出したお茶を飲もうともせず、圓太郎は出を待っていた音曲師の勝次郎のほうを向いていった。
「よせやい圓太郎。今日はお前、十二月の二十日じゃねえか。なにがいい春だイ」
あきれて横にいた色の黒い長い顔の古今亭今輔が言った。
「春じゃアねえか」
圓太郎は自信たッぷりの顔つきをした。
「どうしてよ」
今輔が訊き返した。
「どうしてッてお前、理屈じゃアねえやな、陽気なんてものは。暦に出てるンだよチャンと暦に。十月から四月まではみんな春だとよ。してみりゃア今夜いい春だアな」
言い終えて、ケロリとしている。
「こいつァいいや」
「とんだ大笑えだ」
今輔も勝次郎も、見習いの前座までが思わず釣り込まれて笑い出してしまった。ドッという笑い声が、今度は楽屋から寄席へと響いていった。
元日の盆提灯
「いつまでそんなところに立ってねえで座ったらどうだ
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