げているばかりだった。
「冗談じゃねえ、お前お手討だよ」
圓朝はまたおしかぶせて言った。
「そうですか、お手討ですか、エエ、よござんすとも」
ますます彼は落ちつきはらっていた。
「アレ、この野郎お手討を平気でいやがる」
あきれたように圓朝は、
「圓太郎、お前いったいお手討ってなんだか知っているのか」
「…………」
言下に彼は首を左右に振ってみせた。
「アレだ。よく聞いとけよ。お手討てのはナ、新身の一刀試し斬り。お前の首と胴とが生き別れになるンだぜ」
世にもおそろしい顔つきで圓朝に言われた途端、
「エ。私の首と胴とが離れる? ソソソそれは。ヒ、人殺し――」
悲鳴をあげた圓太郎は立ちのまま全身を硬ばらせ、白眼をむき出して両手を差し上げたからたまらない。ガラガラガラガラン、バリバリドタドタドタドタンピシーン。仰向けざまに彼の身体は芝居噺の美しい道具の中へ落っこちてきて、そこらじゅう、滅茶滅茶になってしまった。
「あやまッといてくださいよ師匠、ごめんなさい、ごめんなさいよウ」
こんなことを言いながら慌てて起き上がった圓太郎は、脱兎のように駆け出していってしまった。
その晩
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